マッチングアプリ全盛期。
合コン、街コンの盛り上がりは次第に落ち着きをみせ、ついにスマホ1台で女性と出会える時代を迎えた。
そう、出会いは、オフラインの世界から、オンラインの世界へと移っていったのだ。そして、お互い「いいな」と思ったらお互いメッセージを自由に送りあうことができる仕組みになっている。
改めて解説する必要はないと思うが、マッチングアプリには個人の身体的特徴や趣味などアピールする要素がキレイに書かれていて、僕たちはその情報をもとに相手の女の子に「いいね」を押し、好意を伝える。
とはいえ、いくら顔やプロフィールが載っていても、直接出会って肌で感じるまでは、そこに信じられる真実など何一つない。
アプリでマッチングした女性と出会うという行為は、いわば、保証のないルーレット回しているのと何も変わりはないのだ。
だって、普通の女子大生の口からまさかあんな単語が聞こえてくるとは思わなかった。
「ハプニングバー」と。
女子大生・そら

2年前、僕は始めてまもないマッチングアプリにハマっていた。昼休みに、退社後に、寝る前に。日々サイトを訪れ、毎日のように作業として「いいね」を送っていた。
今では仮想通貨バブルが起きているが、当時は確実にマッチングバブルが起きていて、異性と出会うハードルは限りなく低かった。
そしていつものように、1人の女の子とマッチングした。相手は、有名大在学、MARCHの4年生。名前は「そら」(仮)という。
実際会ってみると、写真の通りの美人だった。とても大人しそうな佇まいをしていたものの、髪型はショートの黒髪、二重で大きな目をしていて、肌は雪国から上京したのかというほど白かった。
珍しく早めに早めの時間に待ち合わせをし、特にコンセプトもなさそうな新宿の居酒屋に入り、様子を伺うことにした。

机を真ん中に向かい合って座敷でくつろぎながら2時間ほど話していた。真横に座れないとなかなか物理的な距離も、心の距離も詰めにくい。
話すことも、深い話をせずありきたりで2時間も話せばしだいに話すこともなくなっていく。
「ああ、なんかそんな面白くないな」と感じ始めたその時だった。僕は、衝撃的な言葉を耳にした。
「私、○○に興味がある」
2年前のことだ。どんな文脈でその言葉がでたかはまるで覚えていない。しかし、確実にいえることは、その日僕は、踏み込んではいけない領域に踏み込んでしまうのではないかという恐怖、そして、ある種の好奇心を全身で感じていたはずだ。
そもそも、法律的には問題ないのかとか、中で何が行われているのかなど、諸々の問題や内情はその場で調べてみた。
もちろん、WEBサイトを調べてみてもお店が大々的に「例のバー」と打ち出すはずもなく、あくまでも「ハプニング」が起きると噂されているバーという不明確な情報にとどまっていた。なので、正確には「例のバー」であるかどうかは定かではない。
僕たちは、潜入することに決めた。

時間は既に21時—。
僕のなかの「例のバー」のイメージはおそらくこの文章を読んでいる読者と変わらないだろう。
もし、その通りのことが行われていたら、僕たちは、関わってはいけないし、即その場から離れないといけないはずだ。これから行くところはあくまでも「噂」だから。

街の 薄暗くなってくる道のそばに、「例のバー」はあった。
やはり、未知すぎる世界を前にすると、控えめに言っても怖すぎる。
「本当に行く?」
とすでに決まったことを確認するあたり、恐怖心が勝っていた証拠だろう。もう引き返せないところまで来ていた。
バーの入口はマンションの一室のようになっており、入るにはインターホンを押す必要があるようだ。
ピンポーン
静かな空間に音がこだました。
インターホンを押すと、「ギギギ…」とゆっくりドアが開いた。中から、刺激的な格好をした美人な女性の店員が目の前に現れた。ドアの隙間から垣間見える玄関は、クリスマスパーティーかと勘違いするような豆電球がチカチカと照らされていた。
“その筋の人“が出てくる最悪の事態も想定していたが、予想は当たらず、普通の店員に迎え入れてもらったので少しだけホッとした。覚悟を決めて、僕たち2人は中に入ることにした。
事前に調べたところによると、今日はプールイベントがあり、室内に簡易プールが用意されているとのことだった。
「水着美女がいるのだろうか…?」
靴を脱ぎ、荷物を預け、お金を支払う。男1人でくるよりも男女の方が安くなるようだ。
店内は薄暗く、中に入るとバーというだけあってカウンターがあった。先ほど招き入れてくれた女性店員はお客さんと雑談をしていた。
「例のバー」において女性店員はどういう立ち位置なんだろう…。僕は勝手に想像を膨らませてドギマギしていた。
僕たちはそれぞれお酒を頼み、どこに座ろうかと迷っていたが、「このお店は初めて?」と店員が丁寧に案内してくれた?
店内は、大きく分けて2つの空間で、人が集まるグループごとに仕切られていて、中央に簡易プールが設置されていた。僕たちはまだ席が空いている方へと向かった。
席には、おじさん4人が座っていた。何が嬉しいのか、ニヤニヤとこちらを見ていた。
僕とそらはソファの真ん中に隣同士で座り、おじさんたちに囲まれる形となった。男しかいない会場に少し落ち込んだが、それ以上に、異空間にきた興奮が上回ってその場をたのしむ準備はできていた。
おじさんたちは
「若いねー、美人だねー」
「君らカップル?」
「プール入らないの?」
と色々話しかけてくれていたが、おとなしいそらは微笑むばかりだったので、僕が受け答えのほとんどを担っていた。
「例のバー」とは必ずしも”皆が思っているような場所”ではなく、特殊な性的嗜好を持つ人々が集まり、語り合うというのが一般的なようだ。
「女の子がたくさんいる時もあるんですか?」と聞くと、
「日や時間帯によっている時といない時があるよ」と返ってきて、来る日を間違えたな…と思う余裕がほど雰囲気に慣れてきた。
そらも、壁にかけてあったSMグッズに興味を示したようで、よくビデオなどでみる黒いムチを手にとって、叩かれたそうなおじさんをひたすら叩いていた。
おじさんは満面の笑みを浮かべていた。
それを見たそらも、初めて触ったおもちゃを遊ぶ子供のような表情をしていた。この時初めて、そらの中の狂気を見た気がした。
その日以降、その場所には行っていないので、僕たちが行った日に限ってだったのかどうかは定かではない。特に「ハプニング」が起きたわけでもなく、十分満足した僕たち2人は寂しそうな顔をしたおじさんたちに別れを告げ、その場を後にした。
「また来てねー」という言葉を背中で感じながら。
女の子エクセル管理物語 TOPページはコチラ
コメントを残す